汝、風を斬れ
雨はいよいよ強くなり、薄手の雨具で凌ぐのも大変になってきた。その上、この雨の中を国外へ向かうのもかなり怪しい行為だろう。ジンとキュアはそう考え、まだ昼を過ぎたばかりだが、旅館へ入ることにした。キュアの髪は、大丈夫、染め粉は落ちていない。
落ち着いた雰囲気の宿である。花街特有のごみごみとした空気も、けばけばしい装飾もない。差詰め、アットホームな民宿、と言ったところ。
「いらっしゃいませ、」
四十代後半だろうか、迎えた男はこの宿の主人だと言う。
「ひでえ雨になりましたねぇ、お泊まりですかい?」
「ええ」
ジンは答える。
男は台帳を捲りながら続けた。
「ベッドは一つでいいかい? そっちの姉ちゃんは彼女だろ?」
キュアと思わず顔を合わせる。あはは、と吹き出す。
「妹ですよ。ベッド二つの部屋で」
やはり、色町であった。