汝、風を斬れ

「キュアは聞きましたか? セントの話を」
「なに?」
「……話していいとは思いますが、あいつの、大戦の時の話です。或る所に一人の男がいた。妻と子供をこれ以上なく愛する兵士だった……」

 物語が続く。キュアはジンの、暖かい声に包まれる。

「……キュア?」
 眠っている。柔らかな頬に淡青の髪が流れる。ジンはそっと毛布を掛けた。作業を続けるる。雨は上がったが、雲は晴れない。色町の夜はざわめきを保って更けて行く。

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