汝、風を斬れ

 どれほど経った頃だろうか。
 コンコン、と軽いノックに、ジンは体を起こした。

「宿のローナという者です。お休みのところ申し訳ございません、開けていただけませんか」
 ジンはドアを開け、顔だけ出す。

「すみません、主人が寄り合いで出掛けてしまったのですが、ちょっと運ばなければならない荷物が出来てしまって……お手伝い願えないでしょうか」

「……」

「今日のお客様、お二人だけで……申し訳ございませんが」
 ジンはドアの外へ出て、カチンと閉めた。

「すぐに終わるんですね」
「ありがとうございます、こちらです」

 勿論、その直ぐ後にハスが部屋へ入る。外から入る光だけで髪の色などはわからない。
「おお」

 ハスは思わず声を出してしまった。綺麗だ。

 みし、とキュアの眠るベッドに乗る。起きない。ごく、と唾を飲む。起きない。僅かに唇が開いた。
「ん……」と吐息。

 ハスはその唇に自分のそれを近づけて行く。
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