汝、風を斬れ
 大勢が追いかけてくる。さて、どっちに逃げる、ジン。
「姫、背中の荷物の中から赤い丸薬を出して下さい」
「……これ?」
 いつか、セントが追っ手を捲くのに使った丸薬である。
「潰して、思いっきり後ろに投げて」
 大量の煙。
「「うわ、前が……」」

 物陰。

「行ったかな」
 どうだろう、ジンは思う。塊としてのざわめきはない。そのままの集団で探しに走ったか、散り散りで探しているか。取り分を多くするために、おそらくは後者。見つかるのも時間の問題か。
「冷えます」
 ジンは上着をキュアに掛ける。靄が出てきた。朝になる。
「ありがとう。ジンは寒くないの?」
 薄いシャツ一枚で。
「大丈夫です……」
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