汝、風を斬れ
 ふと、一人の少年が目に留まった。この雨を凌ぐ物を持たず、体は泥で汚れ、物陰で俯いている。 

「ラスフ、止まりなさい」
「どうなさいましたか」
 ジンが自らの馬を降りてキュアの馬に寄る。キュアはジンに言って馬を降り、列を出る。ざわ、とそこにいた人々がにわかに揺れる。
「逃げません。少し待ちなさい」
 一軍は動かず、ジンも追わず、その背中を見送る。

 キュアは少年の前に。
「風邪をひきますよ」
 突如降りかかった声に、少年は真っ黒な瞳を向けた。目の前にいるとても綺麗な人は、細い指で雨具を解いていく。そしてそれを自分に着せた。良い匂いがする。その人がにっこりと笑う。何だろう、とっても嬉しくなった。
「ねぇ」
 去りかけた後ろ姿に言う。その淡い青色の髪の毛は。
「お姫様?」
 キュアは振り返って、小さく笑った。なおって兵隊の列に入って行く。
「……ありがとう!」
 戻ったキュアに、ジンは自分の雨具を被せた。そして細い腰を持ち上げて馬に乗せる。キュアの頬を雨が濡らし、さらに涙が濡らす。
 ラスフが何か言い、一軍は速度を上げて城を目差した。
< 94 / 165 >

この作品をシェア

pagetop