屋上の君とわたし

彼がいなくなってから、私も屋上を後にして家帰った。

いつも通り音をたてないように入って、玄関から1番近い自分の部屋に入る。

「誰だったんだろ。」

急に来て、名前を言って、帰っていった。

「イチノセ ジュン」

心の中でその名前を、あの顔を、あの笑顔を、反芻する。

どっかで見たことがあるような気がしないでもないけど、薄暗くてよく見えなかったからなあ。

それに私の知り合いに「イチノセ ジュン」という人はいない。

でも綺麗な顔をしてた。

高い背に、整った小さな顔に、短い髪。

あんな人間を初めて見た。

まるでブラウン管の中の世界の住人みたい。


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