甘い瞳に囚われて。
「――…シイカ」
何故、私の名前だけを呼ぶ…?
どす黒いオーラを放つ王子様の怒りの根源を頭の中で高速に考える。
今の状況を見て、明らかに回廊の中までビチョビチョにしてしまったことだろうか?
『お、王子…これはですね、ロサが…』
自分の名前を呼ばれ、ビク!と固まっていた肩を大きく上下に動いたロサは…、「お前、余計なこと言うなよ?」と訴えるような目で見つめてきた。
「見つめ合うな」
『へ?』
突然、王子が発した言葉に私がキョトンとした表情を浮かべ、隣にいるロサに視線を戻すと…、
「悪いな、ネェちゃん…後は任した」
今度は、ずぶ濡れになっている魔術士ロサ様の言葉にギョ!とした。
『ちょっ!どっ…』
どういう意味?、と問いかける前にロサの姿は一瞬にして消えた。
アイツ…っ
逃げた!と悔やんで、再び王子の方へ視線を向けるが…、
ロサが消えたことに気も止めず、王子はずっと私から視線をずらさなかった。