~天に背いて~<~天に送る風~第二部>
 獲物である捕らえたての、恐怖にすくみ上がっているはずの餌が、目の前でけたけた笑い出したとすれば。

 それは、人間のように複雑でも画期的センスの持ち主でもない地獄の住民にとって不快そのものでしかない。


「チ、気が触れたか」


 と舌打ちして放り投げるだろう。

 仕方がないのだ。地獄に笑いはなじまない。

 なじんでほしくない、いやさ、なじまれても困る。

 地獄の王がなによりそれを嫌うからだ。

 甲高い悲鳴と汚物をばらまく音と粘液の混じる音とは、いっそこの国を盛り立て、皮膚を一枚ずつ切り裂いてゆく拷問者の愉悦につながっている。
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