~天に背いて~<~天に送る風~第二部>

 もう、本当に悪いのはサフィール王子ただ一人のような顔をしている、女性ら二人。


「無様な」


 アレキサンドラ自身、ため息をつきたいとばかりに呟いている。


『ちぇー、俺まで縛る意味あんのかよ』


 そう言ってクリスチーネは、ちまっとした身体をもじもじと動かす。その目は何か意識している。

 地獄の王者に逆らって命のあった者はない。

 その恐怖、おそろしさ。

 亡者ですら餌を得るためにしか滅多に城へ近寄ろうとしない。

 燃える目。鋭い刃のような反りあがった鼻先に、毒液をしたたらせ獲物を仕留めようかという愉悦に浸る蛇の牙。

 そのまがまがしさはウロボロス以上だった。いや、ウロボロスを従えるのに足る、王者の姿。
< 91 / 118 >

この作品をシェア

pagetop