happiness
 その場所とは、大きく太い切り株をたくさんの木々が囲んだ、静かな森の中の一部。
 今日は雪が降ったあとであることから、土の地面は白い雪で隠され、たくさんの木々の葉や枝も白い服を身に纏っている。
 莢は中央にあるこの切り株に腰を下ろし、何をする訳でもなく時間を過ごすのが大好きだ。

 「…あれ」

 昨日と違う、いや、正確にはこの場所に通いはじめてから今まででみたことのない風景に、莢は短く声を漏らす。
 切り株の上に、少年が座っている。
 その少年は、莢が発した声に気付いたようで、空を仰いでいた顔を莢に向け、柔らかく微笑む。

「こんにちは」

「……こんにちは…」

 挨拶をされたら返さない訳にもいかない。莢はその人を訝しげに見ながら、静かに挨拶を返す。
 すると少年は、訝しげに自分を見ている莢の目を、微笑んだままじっと見つめ返した。

「莢、僕のこと、誰だか分かる?」


 このひと、私の名前を知ってる…!


 少年の言葉から自分の知り合いだと悟った莢は、少年の視線から目を逸らし、少年の上から下までに視線を走らせる。
 少年はざっくり編みの白いマフラーを首に巻き、白色のコートを纏い、黒のジーンズに足を通している。年齢は莢と同じくらいであろうか。
 もう一度、顔からつま先までを見るが、やはり誰だか莢には分からなかった。

「悪いけど……誰だかわからない」

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