~天は赦さる~<~天へ送る風~完結編>
そうして彼は文言を唱え、彼女への自分の支配を解いた。
「しかし、末の娘を失うというのは、ことのほか、寂しいものよ」
そして、泡立つ水面に己の姿を映し、身体を沈めた。
「あの男、筋は良い。だがやや意志薄弱で弱気な光がまま見えた。それでもゆくのか。人間とは分からぬものだ」
霧が呼気により濃くなり、彼の痛ましい傷痕は隠れて見えなくなった。
「以前人の技を超えて人々を苦しみの病から救った華陀(かだ)という男がいた。麻酔で患部を麻痺させ病根を断った。禍(か)蛇(だ)の剣とはいわゆる華陀(かだ)の剣。おまえ達が彼の者を苦しめたくなくば、とるべきだったものを」
『剣では駄目なのだ』
「わからぬ。だが、恐ろしく哀れ、かつ見物(みもの)、ときた」