勿忘草
壁一面に広がる水槽の青。
微かに聴こえる水の音。
その中を悠々と泳ぐ様々な海の動物達。
見つめているだけで心が穏やかになった。
思わず息を漏らす。
こんなに大きいと私も海の中にいる様な気分になれる。
いいなぁ
わたしもあんなふうに泳げたらいいのに…。
息継ぎもせず、自由気ままに水の中を泳げたらどんなに気持ちいいだろう。
そんな事をくだらない事を考えながら、私はぼぅっと水槽を眺めていた。
ヴー…ヴー…
突然隣から聞こえたバイブの音に一気に現実に引き戻される。
「ちっ、誰だよ…陽介か?」
総護君はめんどくさそうに、ポケットから携帯を取り出す。
画面を見るなり、眉間の皺を一気に深くなった。
彼は不審げな顔で携帯の画面を見つめていた。
「?」
そんな彼を不思議に思っていると、彼は電話に出た。
『‐カ‐クン』
女の人の声?
微かに総護君の携帯から女性の声が聞こえた。
「…誰だ?」
彼は訝しげな顔をして、電話の相手に尋ねた。
聞いたらいけない。
人の電話の会話なんて聞いたらいけない。
けれど、
分かっていても聞いてしまう。
聞きたくなくても気になってしまって、無意識に私は耳を澄ませていた。