勿忘草
「‐‐リカょ。‐カシ‐‐」
何を言っているかまでは分からないが、
微かに聞こえるのは女性の声。
その声に総護君はひどく驚いた顔をして、
一瞬私を見たかと思うと、すぐにどこかへ歩き出した。
私はそんな総護君の後ろ姿を見つめる。
「ー茉莉花。なん…~」
そして彼は歩きながら言った。
マリカ?
最初は様子が変だったからどうしたのかと思ったけれど、
どうやら知り合いらしい。
親しげにそう呼んでいた。
私はまた大水槽に目を戻す。
-チクリ
胸の奥に小さな痛みを感じる。
「…?」
水槽の水を見ても、
その中を優雅に泳ぐ魚達を見ても、
心は穏やかになれない。
むしろ私の心は、ざわざわと波をおこして落ち着かない。
どうしたんだろう
そう思うと何故か、胸の痛みがました気がした。