勿忘草







「そう…ご…くん」



ふと彼の顔を見て、ホッとする。


現実に戻った私は、嫌な汗をかいていた。


微か(かすか)に震える体には、まだ先程の暗闇の余韻が残っている。



まるで悪夢を見た後のような…


そんな感覚。




「…?」



総護君はそんな私を心配そうに見つめる。



「ごっごめんなさい。何でもないの…早く次に行こう?」



私は慌てて彼の腕を掴み、そそくさと部屋を出る為、出口へ向かう。


扉のない出口の向こうには、明るい外。



とにかく早く明るい所へ行きたかった。


この暗い空間にこれ以上いたくなかった。


まだあの暗闇が体にまとわりついているような気がして。




光を求める。






それにこれ以上総護君に心配させたくなかった。



せっかく楽しみに来たのに。






こんな事で台無しにしたくない。








そうして屋外に出ると、空は未だに太陽がサンサンと輝いていた。



風に乗って少し潮の香りがする。


私は立ち止まり、辺りを見渡す。


目の前には、次の建物。


左側には下へ降りられる階段があった。



その先にはアザラシや、アシカ、トドなどがいる。


更にその向こうには深い青色の海。


潮の香りはそこから来たのだろう。




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