勿忘草
「うぉっ」
私は彼を引っ張りながら、迷わず階段を駆け降りた。
彼はいきなり引っ張られて、小さく驚きの声をあげるも、
私は気にせず走った。
長い階段。
立ち止まるのが怖くて、
なんだかあの暗闇にまた捕らわれてしまうような気がして。
息を切らせながらも、
止まる事なく降り続けた。
「-っはぁはぁ」
何とか階段を降り終え、やっと私は止まる。
掴んでいた彼の腕を離し、
肩を上下させながら、手で汗を拭う。
切れる息を無理矢理整えて、前を指差した。
「アッアザラシ!総護君、行ってみよう!」
止まっているのが嫌で、
無理にはしゃぎながらも再びその方へ向かおうと歩き出す。
「待て!」
パシッ!
そんな私の手を、今度は彼が掴んだ。
勢い良く振り返ると、
彼は私を真面目な表情でしばらく見つめる。
そして苛立った様に顔をしかめながら、言った。
「顔色、わりぃな」
そう一言言うと、今度は彼が私を引っ張った。
「えっ…ちょ」
困惑しながら彼に声を掛けるも、答えるようすはない。
怒らせてしまったのだろうか?
無理もない。
せっかく連れてきてくれたのに、
闇が怖いだなんて理由で無理に引っ張ってこんな所まで走らせて。
挙げ句に具合が悪いだなんて面倒にも程がある。