勿忘草
「ありがとうございました。またの御越しを御待ちしております。」
出口の従業員にそう言われながら、私達は水族館を出た。
すると彼は携帯を手に取る。
そして携帯の起動音と共に、あ。と小さく声をあげた。
「どうかしたの?」
私がそう尋ねると、彼は後悔するように眉間に皺を寄せて私に言った。
「空木から電話きてた」
そういって私に画面を見せる。
着信17:45
丁度今から10分前に着信が来ていた。
「留守電も入ってるな」
そう言って彼は留守電を聴くために携帯を耳にあてた。
私はただその様子を見守る。
『‐ぃ‐‐す…』
するとかすかに携帯から、空木さんの声が聞こえた。
留守電を聴き終えたのか、彼は携帯を耳から離す。
「空木さん、なんて?」
「葛城さんが書類渡し忘れたんだと。」
それを取りに行っているらしい。
彼は私にそう言うと、何かを考えるように目を伏せる。
目線を再び上げたかと思うと、今度はキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
そして何かを見つけたのか、目線が定まる。
「…シオン、ちょっとあそこに座って待ってろ」
彼の視線の先にはひとつの木。
その木の回りは、座るのには丁度いい高さのレンガが囲っていた。
「総護君は?」
彼の言い回しが私一人で待ってるようだったので、
そう聞いてみる。