勿忘草
ガチャ
しばらくすると空木が部屋に入ってきた。
「お粥を作っておきましたので、心音様の目が覚めたら食べさせて下さい」
「分かった」
「それでは私は失礼します」
俺は空木には顔を向けず、ただシオンの顔を見つめたまま返事をする。
その様子を見た空木はなかなか部屋を出て行かず、
そしてゆっくりと口を開いた。
「…私は、貴方様の世話係です。総護様が幼い頃から、様々な事を教えて参りました。」
いきなりそんな話をする空木を変に思い、俺は彼の顔を見た。
「ですから私は貴方様に世の中の理(ことわり)を…ルールを教えなければなりません。」
彼が何を言っているのか、何故そんな事を話しているのか全く解らなかった。
しかし空木が余りに真剣な面持ちで話すので俺は何も聞かず、
真面目に話を聞いた。
「私はその役割担う者として…医学を学ぶ者として…彼女は、心音様と別人だと思うべきでしょう。…しかし…」
空木は眉を下げて、自虐的に笑った。