勿忘草
空木さんが運転する車で私達は病院へ向かう。
「一時間ほど掛かりますので」
彼にそう告げられ、私と総護君は後ろの席に座っていた。
外とは違い涼しく、静かな車内の中、
私は総護君をちらりと見ながら思う。
総護君って…
何者なんだろう。
総護君が住んでいるマンション、
総護君のお家に仕えているという空木さん、
そしてこの車も。
どうやら私が思っている以上に、
総護君はすごいらしい。
「ん?なんだ?」
外を眺めながら頬杖をしていた彼が、
私の視線に気付き、こちらを向いた。
「いや…総護君って凄い人なんだなぁって思って」
素直に思ったことを言った。
すると彼は少し驚いた後、苦笑する。
「凄いのは俺じゃねぇ。親の会社。」
「私が言ってるのはそういう「お!」
彼は何かを見つけたように小さく声を上げた。
その視線の先に目をやる。
大きなイルカの看板。
水族館?
車でその横を通り過ぎた。
「どうしたの?」
彼に尋ねる。
すると彼はふっと笑って、答える。
「何でもねぇよ。てかシオン、お前今なんか言い掛けたか?」
「ううん。大したことじゃないから」
彼が私にそう尋ねてきたけれど、
大した事ではなかったし、
改めて言うのもおかしいと思い言わなかった。