勿忘草

先生は興味深そうに目を細めた。


「…なる程。わかりました。お疲れ様、とりあえず診察はこれで終わりだよ。よく頑張ったね。結果を伝えたいから榊君達を呼ぼうか」



そういって立ち上がり、看護婦さんを呼び何かを言っていた。



それからしばらくすると、診察室に総護君と空木さんが入ってきた。


出された椅子を空木さんは断り、後ろに立っている。



「それで?」


椅子に座った総護君はさっそく先生に聞く。




先生は私のレントゲンや診断結果が記されている紙を見ている。


厳しい顔で眼鏡を上げると、
こちらを向いて、口を開いた。


「脳に異常はなかったし、彼女は恐らく、心因性健忘という病気だろう。」



心因性健忘(シンインセイケンボウ)?


病名を聞いてもなかなかピンとこない。


そんな私の様子と同様、総護君もよくわからないらしい。


眉間の皺が深くなっている。




そんな私達を知ってか知らずか、葛城先生はおもむろに説明を始めた。


「心因性健忘にはのタイプがあってな。彼女はその中で一番重症な人生すべてを思い出せない全般性だろう。」



「重症…」


総護君が顔をしかめながら、そうつぶやく。

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