~天へ送る風~
アレキサンドラは、らしくもなく視線を泳がせた。急に叱責を受け、動揺したようだ。
「見返りとしてそれ相応の謝礼をおしはらいになったということなのですか?」
「まあそうだ」
「存じ上げませんでした。失礼を」
わびなくていい、と王子はまた暗い顔つきをした。
「だれもが見て知っている深山(みやま)に大蛇が出たという。しかも王国唯一の温泉にだ。泉の水に集まる小動物などを狙ってだろうが」
そこで彼女は引っかかりを覚えたらしい。
「温泉の水が小動物の口に合いますか? 大蛇には別の理由があって森から出てきたのかも知れないじゃないですか」