~天へ送る風~
「君は知らなかったのかも知れないが、その温泉には薬効があってな。採取して売れば相当の値になる。だが今、それもできない」
明らかに不審の目でアレキサンドラは彼を見た。それを受け止めて、サフィールは、
「なあ、飲むと病気が治る、と経験的、直感的にわかった生き物は、どうしたって集まるだろ? しかも温泉といっても冷たいんだ」
王子の言うことなのでとられた手をそのままに、彼女は真剣に聞く。
「じゃあ、本当に泉に大蛇が住みついたとおっしゃるのですか」
「そうではない。恐らく封印だ。泉のそばに呪(まじな)いがかけられ、そこから離れられないのだと私は考える」
「ハハッ、王子も女子供の喜びそうな物言いをなさるのですね。しかも呪(まじな)いだなんてさすが詩人に扮するだけはおありです」