もう僕は君のもとへ帰ったりはしない
0.
5年振りに訪れた故郷は、あたり一面、白に覆い尽くされていた。
「久しぶりだね」
手袋を脱いだ右手で、墓石に積もった雪を優しく払う。
そっとしゃがみこんで、胸元に抱えていた生花を足元に広げた。
ほんの少し外気に触れていただけなのに、あたしの右手はもうすでに真っ赤になってかじかんでいた。
新聞紙の上で2つに分けた花を、左右の花瓶に入れる。
白だけだった世界に彩りが添えられて、ほんのちょっと気持ちが軽くなったような気がした。
鞄の中から線香とライターを取り出す。
空気が乾いているせいか、火はすぐについた。
網の上に崩れないように線香を供えて、ゆっくり両手を合わせて目を閉じる。
―――元気にしてる?
問い掛けてみても、もちろん“彼”からの返事はない。
―――あれからもう、5年も経ったよ。
あの頃は、生きている時間がひたすら苦痛で、何もかもが早く過ぎ去ってしまえばいいって、そう思っていたけど。
どうしてだろう。