もう僕は君のもとへ帰ったりはしない
あなたがいなくなってからのこの5年間、時間は追いつくことが出来ないほど早足で進んでしまっている。
あたしはまだあの頃のままでいたいのに。
決して幸せだったとは言えない過去だけど、梓と奈津がいてくれたおかげで、あたしが変わることができたのは確かなことだから。
だからずっと、縋り付いていたかったんだ。
幼いあたしたちが過ごした、16歳という時間は、真っ暗だったけれど、“過去”という形で確かにそこに存在していて。
願わくば、もう一度あなたに会いたい。
今度こそ、3人で笑い合いたい。
―――だけど。
「…もう、叶わない夢だね……」
雪が舞っていた。
右手を高く差し上げて、自分の中で一番高い位置でそれを掴もうとする。
けれど雪はあたしの体温に溶けてしまって、決して瞳に写ることを許してくれない。
まるで自分を見ているみたい、と唐突に思った。
冷たい、という感覚は残るのに、姿を残してくれない粉雪と
苦しかった、という思い出は忘れられないのに、“何”が苦しかったのか思い出せないあたし。