もう僕は君のもとへ帰ったりはしない
粉雪とあたしが似ているだなんて言ったら、あなたはきっと笑うだろうね。
『妃菜は粉雪って言うより、雹(ひょう)じゃない?』
トゲトゲしてて、素直じゃないし。
そんなことを言いながらお腹を抱えて爆笑するのかな。
16歳のあなたが笑っている姿が脳裏によみがえって、目頭が熱くなった。
降り積もったばかりの雪の上に、ザクザクと音をたてながら足跡をつけていく。
足を離した瞬間から、それはもう過去になる。
足を前に踏み出したその時、あたしはもう未来に向かっている。
「――またね」
振り返って、彼にさよならを告げて、その場を立ち去った。
あの頃、あたしたちを取り巻いていたのが“恋”だという感情だと知ったのは、つい最近のこと。
恋を知らずに、恋をしていた16歳のあたし。
子供で、そして未完成だった幼いあたし。
それはもう、過去の記憶。
「―――妃菜」
どこかで、あたしを呼ぶ君の声が聞こえた。