もう僕は君のもとへ帰ったりはしない
1.
“愛”に永遠なんてないってことを知ったのは、6歳の時。
『ごめんね。
お母さん、もう妃菜のそばにいてあげられないの』
口調は悲しそうなのに、瞳は嬉しそうだった、あの日の母親の顔。
今も忘れていない。
――――――…
当たり前が当たり前だと言ったのは誰。
当たり前はいつから当たり前になったの?
――――妃菜!
叫び声が重く頭に響いて、その衝撃で目を覚ました。
視界に映ったのは真っ白な天井。
消毒液の香りが鼻をかすめる。
すぐそばから、金属をカチャカチャとこすり合わせるような音が聞こえてくる。
状況をひとつずつ飲み込んで、あたしは何かの上に寝かせられていることを知った。
ふ。と、無造作に放られている右手が、左手に比べてやけに温かいということに気づく。
右側に少しだけ首を傾けると、
「…あ、ずさ……」
目の下にくまができ、憔悴した表情を浮かべている梓と視線が交わった。
目を覚ましたあたしを、驚いた様子で見つめる瞳。
少しやつれた気もする。