もう僕は君のもとへ帰ったりはしない

あたしの右手に温もりを与えてくれていたのは梓の両手だった。

彼の両手が、力の抜けたあたしの手のひらを強く握りしめる。


「…妃菜…よかった……ほんとに、よかった……」


そう呟いた梓は、うなだれるように頭を下げて、あたしの右手におでこをこすり合わせた。

記憶が少しずつ蘇ってくる。

けれど今日がいつなのかがわからない。

あの日から何日くらいたったのだろうか?

背中が少し痛い気がする。

どれだけの時間をこの場所で過ごしていたのか。

それを梓に尋ねようとした時。

「小野寺さん、」と、閉まったカーテンの奥から女の人の優しい声が聞こえた。

声に反応して、梓が立ち上がる。手は繋いだままで。


「看護師さん!妃菜、目を覚ましました」


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