黒 猫 。
チリンチリン、と、自転車をこぐ音が聞こえた。
俺はハッとして後ろを振り返ると、いつもの新聞配達の若い少年が、
ポストに新聞を入れに来ている処だった。
そこで俺は完全に我に返って、下を俯き、少年の様子を横目で伺った。
少年は、黒猫の死骸を持った俺に気付き、顔を歪ませた。
そして俺と黒猫を交互に見て、焦るようにそそくさと、また自転車をこぎ始めた。
しかし今度は、さっきよりもスピードを上げて。
俺はあえて少年と目を合わせなかった。
目を合わせられたら、少年はどうしていいか解らなくなるだろうから。