幕末異聞
壱拾四章:予兆
――九月十三日 八木邸
「赤城です」
「入れ」
――スス…
「失礼します」
巡回から帰ってきてその足で楓が訪れた場所はなんと副長・土方の部屋だった。
「何か御用ですかな?副長殿」
文机に向かい何か作業をしている土方の背中に楓は話しかけた。
「その気持ち悪い呼び方やめろ。
とりあえず座れ」
楓は無言で土方の指示通り、持っていた刀を畳の上に置き、座る。
「………おい。何でそんなとこに座ってんだ?」
顔を文机から離し、横目で楓を睨みつけながら土方は楓に質問する。
土方が質問したくなるのも無理は無い。
現在楓が座っているのは土方から四メートル近く離れた場所だったのだ。
明らかに人と会話をする距離ではない。
「嫌いだから」
即答。
楓は端っから土方と話しをするつもりなんてないのだ。
用件だけ聞いて帰る。そのつもりでこの部屋に入っていた。