幕末異聞
壱拾四章:予兆



――九月十三日 八木邸


「赤城です」


「入れ」


――スス…


「失礼します」



巡回から帰ってきてその足で楓が訪れた場所はなんと副長・土方の部屋だった。

「何か御用ですかな?副長殿」


文机に向かい何か作業をしている土方の背中に楓は話しかけた。

「その気持ち悪い呼び方やめろ。
とりあえず座れ」

楓は無言で土方の指示通り、持っていた刀を畳の上に置き、座る。



「………おい。何でそんなとこに座ってんだ?」


顔を文机から離し、横目で楓を睨みつけながら土方は楓に質問する。

土方が質問したくなるのも無理は無い。
現在楓が座っているのは土方から四メートル近く離れた場所だったのだ。

明らかに人と会話をする距離ではない。


「嫌いだから」

即答。

楓は端っから土方と話しをするつもりなんてないのだ。
用件だけ聞いて帰る。そのつもりでこの部屋に入っていた。



< 104 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop