幕末異聞
「……ちっ。生意気なガキだ。
じゃあ、お望み通り用件だけ簡潔に伝えてやる。
お前の配属場所が決まった。
永倉君率いる二番隊だ」
「さいですか」
驚きも喜びも無い、なんとも無機質で淡白な会話。
「以上ですか?」
「お前、最近芹沢局長と仲いいみてぇだな?」
刀を持って立とうとした楓に土方がいきなり話を振った。
(あの忍…ホンマに逐一土方に報告しとるんやな)
確かに最近、楓は芹沢にほとんど強制的に酒の相手をさせられる事が多かった。
「うちに確認せんでも、あんたの部下が見てんやから事実なんとちゃいますか?」
「…気づいてやがったのか。気味の悪ィ女だ。
じゃあ、もう回りくどいことはしねぇ。
今から出す俺の質問に答えろ!」
「……はぁ。あんまり疑り深い男は嫌われますよ、土方副長?」
「お前みたいな女に嫌われたところで痛くも痒くもねぇ。
答えろ。お前は長州の者か?」
「いいえ」
「ではその大太刀、女のお前がなぜそんな不釣合いな刀を使っている?」
「貰ったからそのまま使っとる」
「誰に貰ったんだ?」
「随分昔の話やさかい忘れた」
「お前の生まれは?」
「この国のどこか」
「………余計怪しくなってきたじゃねーか!!」
土方は楓ののらりくらりとした返答に怒りを顕わにした。
そんな土方に全く萎縮することなく、楓は落ち着いた声で対応する。
「そんな怪しい思うんなら脱隊でもなんでもさせればええやないですか。
それに、万が一、ホンマに間者だったら斬ればええやろ。
できたらの話やけどな?」
ふんっと自信満々に鼻で笑う楓。
「そうだな。そん時は俺がぶった斬ってやるよ」
お互い睨み合いながら皮肉混じりの微笑をしている。
傍から見たら気味が悪い。
「じゃあ、最後の質問だ。
お前は芹沢に就くつもりか?」
「…さぁ?まだわからんなぁ。
では、失礼させていただきます」
楓は、最後の質問に何か含みがあるように思ったが、土方とこれ以上同じ空間にいたくなかったため、何も言わずに副長室を出た。