幕末異聞
壱拾八章:暗殺
何かがおかしい。
楓は酒を飲みながらこの空間に違和感を感じていた。
正午までは何とか持ちこたえた天気も、夕方からは土砂降りの雨となった。
そんなことは全く関係ないというように馬鹿騒ぎをしている店が一軒だけあった。
島原の料亭、『角屋』である。
本日は店を丸ごと貸しきって新撰組の祝賀会が行われているのだ。
百名近くいる隊士がこの一時だけは職務を忘れて一斉に酒を飲む。
ただで済むはずがない。
「かーえーでーちゃんっ」
宴会が始まって小一時間。盛り上がる隊士たちの輪から離れ、格子窓を背もたれに一人酒を楽しんでいた楓に酔っ払った藤堂が絡んできた。
「なんやねんそのキモイ話し方」
明らかに絡むなという雰囲気を漂わせつつ、楓はお猪口を口元に運ぶ。
「でへへ〜!そんな冷たくしないでよ〜ン!!」
頬を真っ赤にしてフラフラと近づいてくる藤堂。
――ドサッ
「!!!?」
「う〜ん。温かいな〜。俺このまま寝れる自信あるわ」
いきなりのことに楓はまず何をしたらいいか考えられずにいた。