幕末異聞


縁側の障子から何かが覗いている。

ついに時が来たのか。

しばらくして襖が閉められる。
掛けられた女物の着物を半身剥ぎ、静かに隣で眠っている女の漆黒の髪を撫でる。


「お梅」



「ん……ふん?」


夢と現実の区別がついていないようで、お梅は目を閉じたまま髪を撫でる手を掴んだ。

男はその華奢な白い手に自分の逞しい手を重ね、優しく包み込む。





――愛しているぞ




柄にも無い言葉を女に告げる。


おそらく、もう二度と発することの無い言葉。


面と向かってなんて言えない言葉。


今まで伝えられなかった言葉。



最後の言葉。



女の手をゆっくり自分から離す。
掛けられていた着物を頭から女に被せる。
刀は手元に手繰り寄せ、次に障子を開ける人物を待つ。



――そして障子は開かれた


< 144 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop