幕末異聞
縁側の障子から何かが覗いている。
ついに時が来たのか。
しばらくして襖が閉められる。
掛けられた女物の着物を半身剥ぎ、静かに隣で眠っている女の漆黒の髪を撫でる。
「お梅」
「ん……ふん?」
夢と現実の区別がついていないようで、お梅は目を閉じたまま髪を撫でる手を掴んだ。
男はその華奢な白い手に自分の逞しい手を重ね、優しく包み込む。
――愛しているぞ
柄にも無い言葉を女に告げる。
おそらく、もう二度と発することの無い言葉。
面と向かってなんて言えない言葉。
今まで伝えられなかった言葉。
最後の言葉。
女の手をゆっくり自分から離す。
掛けられていた着物を頭から女に被せる。
刀は手元に手繰り寄せ、次に障子を開ける人物を待つ。
――そして障子は開かれた