幕末異聞
「楓はん。どうかうちを…幸せにしておくれやす……」
涙を目に溜めたまま穏やかに微笑むお梅は、この世のどんな女性より美しかった。
「本当に…ええんやね?」
子どもをあやすような優しい声で楓はお梅に最後の質問をした。
「はい!」
切れのいい返事をしたお梅は気がつけば、いつもの気丈な彼女に戻っていた。
その返事に大きく頷いた楓は手に持っている刀を静かに抜く。
「今気がついた。あんた……うちの初めての女友達やったわ」
「ふふ。うちもあんたが初めてやったんよ?」
「あんたの友達勤まんのはうちくらいや」
「そんなんお互い様やろ」
お梅は静かに目を瞑る。
「じゃあ、またな」
「またいつか」
――文久三年 九月十六日 芹沢一派粛清 終了