幕末異聞
沖田はゆったりと楓の隣に座り、胡坐をかいた。


「貴方のこと、不問にするようです。なんたって、今回の下手人はあくまで長州藩の者ですから」

「なんや。切腹の作法練習しとったのに」

「はは!貴方って人は本当におもしろいですね」


会話はすぐに途切れた。
当たり障りの無い話しをしようとするとどうしても頭で考えてから喋らなくてはならない。二人に微妙な空気が流れる。


その空気を一掃するように沖田は立ち上がった。
楓はぼんやり中庭を眺め続けている。


「ちょっと付き合って頂けませんか?」


楓の顔の前に沖田の手が差し出される。

「?」

訳はわからないが、とりあえず沖田の手を払い、自分で畳に手をついて立ち上がった。


沖田は、楓が越えられない敷居を意図も簡単に跨いで部屋を出る。
楓はそんな沖田に“無理”と目で訴える。

「貴方は意外と律儀ですね。大丈夫!見つかった時の事はその時考えればいい」

いつもの沖田ならこんな楓の姿を見たら必ず茶化すはずである。やはり今日の沖田はどこかおかしい。


「…無駄死にしたくないだけや」

楓も、会話を始めてから必要な言葉以外は口に出していない。
楓は沖田に習って、実に二日ぶりの部屋の外を味わった。


二人はそのまま無言で屯所を出た。

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