幕末異聞
後ろ手を組み、結った髪を左右に靡かせながら黙々と前を行く沖田。その姿を見ることなく、俯き加減で後ろを歩く楓。
周りから見たら明らかにおかしい図である。

二十分ほど歩いたところで、流石に目的地が気になってきた楓は、目をきょろきょろと落ち着き無く動かす。



「……此処」


自分の周りに広がる風景は、楓が今一番近づきたくない場所と同じものであった。


「着きましたよ」


沖田が半身振り返り、楓の表情を注意深く観察する。


目の前には石段。
その上には小じんまりとした門が構えている。
何時も昼に訪れていた場所。

そして、彼女との思い出の場所…。


「壬生寺です」

「…」

楓の表情が曇っていく。



「沖田さん!」


門の中から一人の年老いた僧侶が現れた。

「ご住職!」

沖田は暗い表情の楓から目を離し、石段の上からの声に笑顔で手を振り駆け寄った。


「この度の我侭を快く受けていただいたこと、本当に感謝しています」


年老いた住職の年季の入った手をぎゅっと握って深々とお辞儀をする沖田。

「いや、いいんですよ。それより、あの子が楓さんですかな?」

「はい」

楓と目が合った住職は、柔らかな笑みを湛えながら楓に向かって手招きをしている。

「??」

ゆっくりと警戒しながら石段を登り、楓は住職の前に立つ。

「貴女が楓さんですか。お会いしとうございました。私、壬生寺の僧侶の了念と申します」


「…どうも」


「では、早速ご案内致しましょう」

「はい。お願いします」

スタスタと寺内の竹林に向かって歩いていく了念和尚と沖田に楓は戸惑うが、ここは着いていくしかない。

仕方なく、二人の後を追うことにした。
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