幕末異聞
竹林を少し進んだ処にやがて、大きな石碑のようなものが見えてきた。
「ここです」
「そうですか。わざわざ案内までして頂いてありがとうございました」
再度深々と頭を下げる沖田に楓も吊られて会釈をする。
「ほっほ!いいんですよ。それでは、拙僧はこれで失礼します」
住職は軽くお辞儀を返し、二人を残してその場を立ち去った。
「お梅さんの話をしてもいいですか?」
二人以外誰も居なくなった石の前に沖田がしゃがむ。
「…」
楓が何も言わないのを承諾の意思表示だと判断した沖田は石に触れ、語りだした。
「この石は、無縁仏となった方々の墓石なんです」
「…ぇ!?」
楓は小さく驚愕の声を漏らす。
「お梅さんの生家は、京都の西陣だそうです。両親は子どもだったお梅さんをかわいがっていたそうですが、金銭的にお梅さんを育てるのには無理があった。
そこで、両親は十四歳になったお梅さんを呉服屋に奉公に出したそうなんです。そして、何年か経ち一層美人になったお梅さんは、呉服屋の次期当主の正妻となった」
「…じゃあ、生きていたらお梅が芹沢と一緒になることは……」
沖田は静かに首を振る。
「叶わなかった…」
「…っ!!」
「昨日の明け方、お梅さんの遺体を夫である呉服屋の若旦那に引き渡そうとしたんですが、残念ながら受けて頂く事は出来ませんでした。
だったらせめて、芹沢さんの眠るこの壬生寺で無縁仏として葬ってもらうのが一番ではないかと思って、了念和尚に頼んでここに埋葬して頂いたんです」
「…そうか」
楓は改めてお梅が眠る大きな墓石を見上げた。