幕末異聞
弐拾章:ある娘の話
――あの方にもう一度お会いしたい…
もう一度……
もう一度…………
「さ…さっきから謝ってるじゃないですか!!これ以上一体どうしろと言うのですか?!」
冬もいよいよ本番となり、早くも年越しの品を並べている四条河原町の出店通りに若い女の逼迫した声が響く。
「しろしいわっ!!わしの袴によーけ水掛けといて偉そうにほざいてんじゃねー!!」
「当然まどうてくれるんだよな?」
女の声に答えるように、あまり上等とは言えない着物を着て腰帯に刀を挿した男達が声を裏返らせながら怒鳴っていた。
「し…しろいわ?白岩??」
男たちの言葉は女の記憶にはない単語が含まれていたため、いまいち恐怖を感じられなかった。
しかし、この女の態度が男たちの逆鱗に触れた。
「こんのアマッ!!ずにあがりやがって!ええかげんにせにゃ斬るぞ!!」
一人の男がついに腰の得物に手を掛けた。
「!!!?」
(だ…誰かっ!!)
女は身を硬くし、きつく目を閉じる。
“ちょいとお兄さん方”
真っ暗闇の中、誰かの声が聞こえてきた。
“ああ?!あんだこんガキャー!すっこんでろ!!”
先ほどの男に話しかけているようだ。
女は恐る恐る瞼を上げた。
「こんな町中でそんな物騒なモン振り回したらあかんやろ」
女の瞳が映し出したのは、なんとも変わった風体をした人物。その人物の周りにはごく普通の格好をした四人の男たち。
(…どうなってるの??)