幕末異聞
「けっ!偉そうに」
男の一人が刀を抜き、地面に唾を吐いた。
「はっ!粋がっとんな〜。でもやめとき!今なら見なかったことにしといたるから早よ散れや」
「おい、あんまり挑発するなよ」
男たちと会話する人物に後ろにいた小柄な男が耳打ちする。
「覚悟せいっ!!!」
刀を抜いた男が不意に斬りかかる。
――ガキッ!!
「うちは親切に忠告しただけや」
斬りかかってきた男の刀を自分の持っている大きな刀の鞘であっさり受け止める風変わりな人物。
「それでも斬りかかってくるっちゅーことは死ぬ覚悟があるいうことや!!」
「なっ!!!」
――ザシュッ…
「し…信じられない……あなたは一体?!!」
一瞬の見事な早業だった。
斬りかかってきた男は一人だった筈なのに、いつの間にか後ろにいる仲間の男まで腹を一文字に斬られている。
「新撰組や」
男たちを斬った変わった風体の人物は血を払った刀を鞘に収めると、肩の上に乗せた。驚いたことに、衣服や肌には返り血一つ浴びてない。
その場を去ろうとする新選組一行を女は慌てて呼び止める。
「あ!お名前は?!」
女の言葉に男たちを斬った人物が振り返る。
「…?赤城楓」
名だけ告げると、新撰組一行はどこかえ行ってしまった。
「赤城…楓……」
女はしばらく楓が去っていった方向を見つめていた。