幕末異聞
「…山崎君、君の茶化しはやけに棘があるな…」
――スス…
万年閉められている障子が山崎蒸によって開かれた。
「嫌味の一つや二つ言いたなりますよ。最近、どの捕縛現場に行ってもどの死体確認に行ってもやつの名前を書かん時はない。
今日も書いてきましたし?」
バサっと土方が使っている文机の上に今しがた出来上がった報告書を数枚置いた。
「…またか」
呼気と一緒に魂が出そうなほど深いため息をつく土方に、
「ただ、あの女、面白い土産も持ってきはりましたよ」
と山崎は珍しく口元を綻ばせた。土方の釣り上がった眉が片方だけピクリと反応する。
「十二月に入ってからの死体と捕縛したやつら、調べたらほとんどが長州の出身なんですよ」
「…確かに。長州の者が多いな」
近藤は土方に押し付けられた原本をパラパラと見返す。
「それを裏付けるのが、今日のこの報告書」
土方は文机に置かれた半紙を手に取る。
「町人の証言では、今回の四条河原町での一件、斬られた二人は長州訛りが残った浪人だったようです」
「…なるほど」
たっぷりと間を空けてから土方は、なにか確かなものを掴んだように満ち足りた顔で、
「調べてみて損は無さそうだな」
と笑った。