幕末異聞
「浅野、腕の調子はどうや?」
後ろから声を掛けてきたのは監察方の先輩、山崎蒸だった。
「山崎さん!お蔭さんでえれー調子えーですわ!!」
「そうか。そりゃよかった」
屯所内の監察方の仕事部屋まで山崎さんと並んで歩く。
俺は少し緊張している。
「そういえば、この前の喧嘩騒動どないした?」
何を話そうか困っていたが、山崎さんが気を利かせて話しかけてきてくれた。
「ああ!!あれですか!ありゃ漬物屋の婆が寛大なお人だったけー、丸く収まりました!」
「なるほど。よかったな」
「はい!」
山崎さんは男前だ。
俺みたいにお喋りじゃないし、必要なことしか言わない。これが真の男だと俺は思う。
「あ…あの、山ざ「おーい、薫ちゃーん!!」
山崎さんに話しかけようとしたとき、庭の方から手を振っている人が俺の名前を呼んだ。
俺のことを“薫ちゃん”と呼ぶ人間は少なくない。しかし、あの生意気そうな喋り方と肩に担いでいる刀。
奴だ!!俺は急いで聞こえない振りをする。が、その直後、こめかみの辺りに鈍い痛みを感じた。
「ちょお!無視することあらへんやろ」
ゴトンと音を立てて足元に転がったのは、決して小石とはいえない石だった。
「あ…赤城ぃぃ……ッ」
「石はないやろ」
俺の隣にいた山崎さんが赤城に注意をする。
「薫ちゃんは丈夫やから石くらいどうってことあらへん」
お前に俺の何が解るっていうんだーー!!
赤城がこちらに近づいてくるのに比例して左腕の古傷が痛んだ。