幕末異聞
刀と脇差を脇に置き、一息つく。
「おい、鴨川の話聞いたか?」
「おう!結構大事になってたみたいだな」
後ろの座敷に座っているらしい男たちがなにやら話をしている。
(…鴨川?あぁ、さっきの土手の人だかりか)
一度は知らない振りをして立ち去ったものの、やはり気にはなるようで、男は耳を澄まして後ろの会話を聞こうとした。
「何でも女の子が土手で死んでいたらしいぜ?」
「うわ〜、かわいそうに…。怖いご時世だねぇ」
「噂では壬生狼まで現れる大事だったらしい」
(……っ!!!!)
男は話を聞き終わる前に慌てて席を立った。
炊事場から出てきた老女が驚いて
「お侍様?!どうしはったんどすか?」
と、店から出て行こうとする男に声をかけた。
「すまん!つけといてくれっ!!!」
男は眉間に皺をよせながらそれだけ言うと走り去ってしまった。