幕末異聞
「……」
山南は土方の言葉に閉口した。
土方の言っていることは間違いではないからだ。
現在の武士と呼ばれる身分の人間は、古くから続く家柄を受け継いできたため、肩書きだけは立派だが、いざ戦になると逃げ腰になる者が多い。
一方商人であった土方は、武士とはこうあるべきだという理想を常に抱いていたため、現在の武士よりも武士らしい思想を持っている。
(こういう人間が今の日本には必要なのかもしれない)
「そうかも…しれないな」
山南は渋い顔で納得した。
「それに、これは芹沢を討ち取るための大事な材料になる」
「材料?」
近藤も山南も土方の練っている計画の全体像が見えていなかった。
土方という男は、武州にいた時から喧嘩においては有能な策士だった。
現在でもその策士ぶりは衰えず、討ち入りをする際は必ず土方の綿密な計画の下で隊士たちは動いていた。
今回の“局中法度”についても何か他にも目的があることは明確だったが、その意図が二人には掴めない。
そんな二人に土方は静かに説明を始めた。