幕末異聞
壱拾壱章:お梅
堀川五条を越え壬生寺の方角へ歩く。
いつもと変わらない慣れ親しんだ道。
いつもと変わらない賑わう京の町。
ただ一つ違うのはうちの目的――
最近お気に入りの子ができた。
その子に会うためにわざわざ自分から会いに行っている。
まるで恋人のようだと自分でも笑ってしまう。
いつもと同じ時間に壬生寺に着く。
そしていつもの様にその子は石段に大の字で寝そべっていた。
「あんた本当にそれでも女の子かえ?」
「また来たんですか。一体今日は何しに来たん?」
うちが会いに来てるのはこのぶっきらぼうな女。可愛げのかけらもない子。
「うちと会うのが嫌ならここに来なければええんと違いますか?」
女は困ったように頭を掻いて
「あんたには会いとうないけど、うちはここが好きやねん」
目を合わせずに言った。
「ふふ。可愛いなぁ。楓はんは」
「あんたみたいな美人に可愛い言われても虚しくなるだけや」
いつもの挨拶。
楓は相変わらず素直じゃない。でも言葉の端々に優しさがあることを知っているから、うちは楓を訪ね続けている。