幕末異聞
「容認していただけますかな?」
土方は空になった芹沢の杯に酒を注ぐ。
「ふん!男に酒をつがれても嬉しくないのう!!」
「すでに近藤局長からは容認していただいています。この法度は隊士たちの士気を高めるいい起爆剤にもなりましょう」
「まぁ…武士である以上、これくらいは当たり前だな。
よし!この局中法度、採用しようじゃねぇか!」
この時、芹沢はかなり酔っていた。
酒豪とはいえ、やはり判断力が鈍っているようだ。
もし素面の芹沢であれば、こんな容易に返事はしなかっただろう。
土方はこの機を待っていたのだ。
(重役だって例外じゃないことを解ってねえなこのおやじ)
「ありがとうございます。では、明日にでも、正式に局中法度公示の手配をいたします」
胸中、してやったりという思いで土方は席を外した。
屯所での帰り道、土方は誰もいない道に向けて、
「島田君!いるか?」
と言った。
「何か御用ですか?」
土方の背後から音も無く現れはのは、監察方の島田 魁であった。
「至急、山南・沖田・原田を局長室に集めてくれ」
「承知」
島田は返事をすると、またすぐ闇の中へ消えてしまった。
(ここが踏ん張りどころだな)
土方は次の計画へ移るべく、屯所への道を急いだ。