幕末異聞
一人で騒いでいる藤堂を無視して沖田と楓は並んで縁側に座り、改めてそれぞれもらった物を見直す。
「なんや総司、あんたどっか悪いんか?」
沖田の持っている薬を訝しげに見る楓。
「ああ、私は昔ここの辺りが少し弱かったんですよ」
そう言って沖田が示した場所はちょうど肺の辺り。
「本当に小さい頃の話なんですけど…姉上は心配性で未だに昔飲んでた薬をくれるんです」
少し照れくさそうに言う沖田からは、“人斬り”とは全く無縁の温かさを感じた。
「愛されてるっちゅーことや。ええやないか」
沖田姉弟の温かさに触れた楓の心境は複雑だった。
「そういえば、楓の生まれは…「お話しのところ申し訳ありません。
沖田組長、至急局長室までおいでください」
庭のほうから突然声がした。
楓は体を硬直させ、近くに置いてある大太刀を咄嗟に手繰り寄せた。
「島田さん、こんばんは!楓、この人は新撰組観察方の島田魁さんです。
この忍び技、見事でしょう?」
「本当、観察方ってすごいよなぁ〜」
沖田と藤堂はこの手の出来事は日常茶飯事らしく、全く動じていない。
島田は無言で二人に会釈をし、すぐに立ち去ってしまった。
「では、私は行って来ますね。
平助、預かり物確かにいただきました!
ありがとうございます!」
「おお!!んじゃ、がんばれよ!」
沖田は立ち上がり、近藤の部屋がある方向へ漆黒の髪を揺らしながら歩いていった。