盃に浮かぶは酒月
「それではまるで、貴方様がわたくしを恋い慕っているように聞こえまする。」
姫はいつもの調子だった。
少しの恥じらいもない。
しかし対して桂撫は、
「いけないか?」
彼女の言葉を、いとも簡単に肯定した。
「恥ずかしい話だ。所詮私も公卿の者達と変わらぬ。
…姫…。私は、貴女を好いている。
この世の穢れを無くすことが貴女の救いになるのなら、私は喜んでそれをしよう。
私に、貴女を救わせてほしい。」
姫は完全に言葉を失った。
自分に惚れた?
天人である自分に?
いずれは妖怪になるだろう自分に?
なんて愚かしいことか。
この地で暮らし始めて、うつけ者は幾百人と見てきたが、ここまでのうつけは見たことがない。
「……帝。」