盃に浮かぶは酒月
姫は再び月を見上げる。
「明日の夜、月より迎えの者が参ります。わたくしは月へ帰り、地上の穢れを落とさねばなりません。
貴方様とお逢いすることは二度と無いでしょう。」
桂撫は動揺した。
見初めた相手が、月に帰ると言うのだから当然だ。
しかし姫は、ほんの少しだけ顔を桂撫に向けて言う。
「…けれどもし、貴方様がわたくしのために、この世の穢れを無くすと仰るのなら…、これをお飲みなさいませ。」
姫はどこからともなく、金色の布の小袋を取り出し、桂撫に見せた。
これも月の物なのか、小袋は淡い光を放っている。
「不老不死の妙薬にございます。人の寿命はせいぜい五十余年。
千年後、わたくしが再びこの地に降り立つまで、その変わらぬお姿のまま待っていて下さいますか?」