盃に浮かぶは酒月
「ああ、人とは愚かな生き物だ。
好いた者のためなら、自分の身すら顧みないのだから。
貴女に求婚した公卿達のように。」
桂撫の言葉につられ、姫は求婚してきた男達の顔を思い出す。
命を落とした者もいたか…。
「…本当にわたくしを待つおつもり?」
これが最後の問い。
心なしか、真剣味を帯びた姫の声に、桂撫は困ったような笑い声。
「薬を口にした以上、私に貴女を待つ以外の選択肢は無くなった。…千年後、どうか再び、私に姿を見せてくれ…。」
その答えを聞くと、姫は袖で口元を隠し、
ほんの少し、微笑んだように表情を変えた。
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姫が使いの天女達に連れられ、月へ帰って行ったのは、その翌晩のことだった。