盃に浮かぶは酒月


―――


地上から姫を失い、死を失った桂撫の苛酷な日々も同じく始まった。


いつまでも若く美しい桂撫は、初めこそ周りから羨ましがられていたが、

…それが五年、十年経つと、周囲も彼の“異常さ”に気付かずにはいられなかった。


彼が自身を不老不死と語れど周囲はまるで信じず、あろうことか彼が妖怪に取り憑かれたと思い込み始めた。


不老の桂撫。
それがいよいよ五十年が過ぎると払い師が呼び出され、桂撫は完全に化け物扱い。

帝の座を取り上げられ、都からも追放された。


転落した。


今まで媚びへつらってきた輩は総出で槍を持ち、動物でさえ桂撫を恐れ、近寄ろうとしない。

どこへ逃げ延びても迫害を受ける。
だがいくら苦しもうと、不死の身である桂撫。
楽にはなれない。


まだ五十年か。
たった五十年なのか。
千年とはなんて遠い未来なのだ。

想像を絶するこの世の辛酸に体を蝕まれながら、桂撫の理性はゆっくり衰退していった…。


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