盃に浮かぶは酒月
望月
―――
気の遠くなるような時間を生きていると、一日の流れがとても早く感じる。
ついこの間は弓張月を眺めていた筈なのに、気付けば空には美しい満月。
どうやら何日も、自分は“あの人”との思い出を思い起こしていたらしい。
逆を言うなら、何日も費やさないと思い出すら留めておけないのか。
足元に転がる屍を見遣る。
鎧兜を纏った厳格そうな武将が事切れている。
……ああそうだ、自分がやったのだった。
―――空腹も睡魔も感じないものだから、気付かなかった。
桂撫はもう、人間らしい欲求も人間らしい心も失っていた。
あるのは、ただひとつだけ。
―――あの人に逢いたい。
“あの人”に。
………―――――。
―――“あの人”とは、誰だ?