盃に浮かぶは酒月
何のために不老不死となった?
―――この世の穢れを消し去るため。
何のために人を殺めた?
―――この国の王になるため。
誰のために王になった?
―――“あの人”のために。
“あの人”の名は?
―――“あの人”は……誰だ?
月を見上げる。
恐ろしいくらい美しい輝きを放つ満月はいつものように…“桂撫”の名しか、答えてはくれなかった。
「……分か、らない。」
あの人とは誰?
あの人の名は何?
―――誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰?
声も、名も、顔すらも思い出せない。
千年とは、桂撫の心を……記憶を狂わすのに、申し分ない時間だった。
愛しいあの人が思い出せない。
しかし今の桂撫には、
それを“悲しい”と感じる気持ちすら、欠落していた。